25. ナラボー 3
Nullarbor 3


ナラボー2の続きから・・・


スタンドバイミー

 ナラボー平原の真ん中で雨に降られて立ち往生、テントの中で2晩過ごし3日目の朝、

雨は止んだものの、バイクで走られるようになるまでには数日間晴れの日が続いて、路面が乾いて

くれないと走ることができない。数日間もここで過ごすほどの食料はなかったので、25km手前にあった

工場らしきところへ歩いて助けを求めに行くことにした。出発は朝の7時。

雨は止んだと行っても曇り空で、気温も肌寒い程度だったので水は500ml のペットボトルに

入れた分のみ、食料はなし、それとカメラを持って歩き出す。 カメラは10年以上前の重たい

一眼レフで、長距離を歩くにはお荷物ではあったが、中学生の頃からの愛機で、

どこへ行くのにもカメラは手放さないという精神でいたので頑張って持っていくことに。

どこまでもまっすぐのびる線路の上を歩く。映画のスタンドバイミーのシーンを思い出して

その鼻歌を歌いながら歩いていた。線路の横にはキロポストと言って、1kmごとに起点からの

距離を示した標識が立っている。 1km、2kmと進んで行くが

「あぁ あと22kmかぁ」 「あと20kmかぁ」などと思うとため息が出そう。それでも歩くしか

ないので板さんと歩き続けた。

途中セスナ機が上空を飛んでいるのが見えた。大きく手を振ったらなぜかしらUターンして行った。

地平線へのびる鉄路
雨上がりのナラボーレールウェイ。
地平線へむかってひたすらまっすぐだ。
列車は一日数本しか通らず、また
列車が来てもすぐにわかるので
安心して線路の上を歩いていた。
足もドロドロにならずにすむし・・・


ルーンガナの工場は遠い・・・









親切なオージー

 4時間ほど歩いたところで、地平線の彼方にかすかに建物らしき陰が見えた。

歩いて行くと少しずつ大きくなってきて、目的の工場であることを確信する。

しかしそれからがまた遠かった。見えてから歩くこと2時間、8km歩いてようやく工場に到着。

3日前にもお世話になったところだったが、事情を説明してとりあえず道路が乾くまでお世話に

なることに。 暖かいシチューを作ってくれて、ほんとに感謝感激!!

雨は止んだものの、バイクが走られるようになるまでにはまだまだ時間がかかるので、

それまでここで泊めてもらうことに。

一息ついたところで話を聞くと

「さっき小さい飛行機が見えただろう? あれは君達が遭難したんじゃないかと思って

 探しに行ってたんだよ」と。

これには驚いた。カルグーリーの鉄道管理局には、ナラボールートへ入る旨と概ねの行程を

伝えてあったが、そこまで心配されていたとは・・・

どうりで手を振ったら戻っていったわけや。無事を確認したということか。

自分達の行動で迷惑をかけてしまったことを非常に申し訳なく思った・・・

話は戻ってここの工場、ライムという鉱山資源を採掘しているところ。

人が定住している町と言うのではなく、600kmほど離れたカルグーリー(このルートの起点)から

飛行機でやってきて、2週間ほど泊まり込みで仕事をし、またカルグーリーに戻って1週間ほど

休日を過ごすと言うリズムで働いているよう。

そのため、従業員用の宿舎というか、小さな家がいくつか建っていて、そのうちの空いている

家を僕たちのために提供してくれた。

ここで3泊
僕と板さんが泊めてもらった家。
従業員一人一人に一軒ずつ家がある。

まさかナラボーの真ん中でこんな
りっぱなところに宿泊できるとは・・・

シャワーを浴びて生き返った気分。
土砂降り雨の泥まみれテントとは
雲泥の差。







ルーンガナで
従業員は全部で10人ほどいたが、写真の
男性はそのうちのチーフらしき人。
名前はPhil (フィル)さん。

ここは事務所のようなところで、ビリヤード台が
置いてあった。

世話役の人は写真の人と違って先日も
食事をごちそうしてくれたコックさん。
小さい女の子はそのコックさんの孫娘。







楽しいひととき

 3食タダで食べさせてもらって何もしないのもとても気が引けるので、何か仕事をさせてくれと

頼み込んだ。そうしてもらった仕事が従業員宿舎の掃除、壊れた洗濯機の修理。(笑)

建物の周りの草むしりなどなど。

夜になると食堂で従業員の人たちと一緒に夕食、初めて顔を合わせるのでちょっと緊張していたが、

みんな明るくて親切な人ばかりですぐにうち解けた。

ここの従業員さん達は遠方からの出稼ぎの人が多いようで、アイルランドから夫婦で来ていた

人も。自分で持ってきたウイスキーを出して、「これはアイルランドのウイスキーよ、飲んでみる?」と。

ありがたくいただく。

ビールやウィスキーを飲みながらいろいろおしゃべり。当時の僕はかなり達者に英語が話すことが

できて「英語力があるとこんなに楽しいんやぁ 勉強してよかった」とつくづく思ったものだ。

今ではすっかり忘れてしまったが・・・

カセットテープ式のカラオケも置いてあった。ポップスでも知っている曲はいろいろあるのだが、

歌詞カードはなく、歌詞まで丸暗記しているポップスはなくさすがに歌えないなぁ・・・なんて

思ってたけど、「My way」を発見、これなら日本語で歌える!!

早速みんなの前で My way の日本語バージョンを披露。(^^)

♪ 今〜 船出が〜 近づく〜 この時に〜

つい2、3日前までの雨の中でのテント生活が嘘のよう、あぁなんて楽しいんだろう・・・




ツーリング再開

 ここでの生活はとても楽しく、時間があっという間に過ぎていく。

3日目の夜に Phil が 「明日の朝、バイクのところまで送っていってやるから。」と。

毎日晴れていたおかげで道もだいぶ乾いた、これくらいなら十分バイクで走ることができる。

とっても親切で明るいオージー達との生活、ほんとはもう一日いたいくらいだったが、

いつまでもお世話になるわけにもいかないので、明朝送ってもらうことに。

4日目の朝、天気は晴れ。工場にあったトラックに僕と板さんも載せてもらって Phil に

バイクのところまで送ってもらった。車で走りながら

「25キロかぁ、俺らよう歩いたなぁ・・・」 

何度もお礼を言って Phil を見送る。さぁ心機一転、またツーリング再開だ。

バイクを置いていたところから80kmほど走ると、フォレストと言う集落があった。

ここも人が定住しているところでもなさそうだ。

家が数件と小型機が離着陸できるような小さな滑走路があった。

時間的にはまだまだ余裕があったが、あわてる旅でもないのでここで泊まることに。

バイクを置いてあちこち歩いてみたが、人の気配がまったくない。

家や滑走路があるのに人の気配が全くないというのもちょっと不気味というかなんというか。

一軒の家をノックしてみたが誰も出てこない、鍵があいていたのでドアを開けて中を覗いて

みたけど人の気配なし。

滑走路の方へ行って、燃料倉庫らしきものがあったので、誰かいれば分けてもらおうと

思ったらここに人がいた。気象観測員で定期的に一人でセスナ機に乗ってやって来るらしい。

この日は小さな公園でテントを張ることに。誰も住んでいないところなのに、公園には

小さな明かりが一つだけポツンと点灯していた。

サウスとウエスタンのボーダー

フォレストを過ぎてしばらく行くと州境がある。
看板の片面には "Welcome to South Australia"  と書いてあり
もう片方には "Welcome to Western Australia"  と書いてある。

この看板の裏にはライダーが残していった一冊のノートがビニール袋に
入れてつるしてあり、このナラボールートに挑戦したライダー達の
いろんな思いが記されていた。もちろん僕たちも書き込んできた。


ケープヨークで一緒だったナンチャンの書き込み発見。

「ところでルーキーよ、おまえはいったいどこへ行ったんだ?」 
やって。(笑)




保線作業員の町

 ボーダーを超えてから約 150km ほどで次の町 Cook に到着。ナラボールート 1500km のうち、

確実に人が住んでいて補給できるところが、カルグーリーから 500km の Rawlina (ロウリナ)、

そこからさらに 500km 先にあるここ、Cook (クック)である。

クック到着は現地時間の夕方5:30、先ほどのボーダーで時計の針を3時間進めたので

太陽の高さで見るとまだまだ陽は高い。

ここは大陸横断鉄道を維持するための保線作業員の町である。

50人くらいいるんだろうか(いやもっとか) ごっつい体で腕や肩に入れ墨をした

強面の人たちばかり。(笑)

プレハブのような倉庫のような・・・そんなところで寝泊まりしているよう。

先日のルーンガナの工場の従業員達とは人も環境もかなり違った雰囲気だった。

ただ、見た目の雰囲気とは違って、ここの人たちはライダー達に対してとても好意的で

「一緒にビール飲むか? カレーを作ったんでそれも食べていけや」ってな感じ。

倉庫にマットレスが置いてあって、そこで寝ればいいとのこと。

このナラボー平原には野ウサギがとても多い。バイクが通るとあわてて蜘蛛の子を散らせたように

何十匹ものウサギがあちこちへ跳んで逃げるのだが、道中運悪く2匹のウサギを轢き殺して

しまった。ここクックの人たちはその野ウサギを捕まえて食べたりもする。

今日のカレーにはウサギの肉が入っていた。食感でいうと鶏肉みたい。

今まで何人ものライダー達と仲良く過ごしてきたようで、話を聞いていると何人かは知っている

ライダーもいた。

この日の夜は十数名で屋外で大宴会。板さんなんてビール9本も飲んでたし。(笑)




最 悪

 翌朝、まだちょっとアルコールが残っているようだが出発準備。ここで意見が分かれた。

ここからは国道1号線への抜け道があるのだ。ちょうど 100km ほど南へ走れば国道へ出る。

板さんは先日の雨のような思いはもう二度としたくないと、ここから1号線へ抜けるつもり。

僕はナラボーレールウェイルートの完走を目指して残り 500km をまだ線路沿いに走りたい。

結局アデレードでまた会おうと、エスペランスから1週間ほど一緒に走ってきた板さんと

ここで別れることに。国道に出てしまえば多少のトラブルはなんとか対応できるだろうと

いうことで分散して持っていた工具は僕が一式借りていくことになった。

お互いの無事を祈り、僕は東へ、板さんは南へ。

クックで食料一式を購入し、また荒れた道を走り始めた。凹凸が激しく何か荷物を

落としたりしていないかと気になり、クックからわずか 15km 走ったところで荷物をチェック

してみると、さっき買ったばかりの食料が一部なくなっていた。

「うわぁ しまった〜 もっと荷造りしっかりせなあかんかった・・・(ToT)ダー」

と思っても後の祭りである。しかたなく戻って探しに行った。その戻っている途中に今度はパンク!!

「もー悪いことは続くの〜 なんでこんな時に (;´д`)トホホ」

近くにあった頭くらいの大きさの石を拾ってきて、それをスタンド代わりにバイクをたてて、

タイヤをはずしパンク修理をする。一通り終わって空気を入れようとしたが全然入らない。

「( ̄□ ̄;)!! なんでや、なんで空気が入れへんねん!!」

何度やっても入らない、板さんに借りた空気入れが故障していたのだった。

「もー 最悪や〜 クックまで戻らなければ・・・」

パンクしたままの状態でタイヤを装着し、時速10キロほどの超スローで ガッタンゴットン

しながらクックまで戻っていく、途中先ほど落とした食料を発見、しかし無惨にもさっき通った

工事車両に踏みつぶされて完全にオジャン。(ToT)ダー 貧乏旅行中の貴重な食料

やったのに・・・ 

とりあえずパンクしたタイヤに空気を入れないとどうにもならないのでそのままクックへ戻って

いると今度はクラッチワイヤーがプツンと切れた。

「いったいどうなってんねん!! クックからたった15km しか走ってないのに食料を落とし、
 タイヤがパンクし、修理したら空気入れが壊れていて、落とした食料を見つけたと思ったら
 グチャグチャで、おまけにクラッチワイヤーまで切れるなんて・・・」

悪いことが重なるにしてもこれはあんまりである。いったいどうしたというのか・・・

幸い、クラッチワイヤーの予備は持っていたのでその場で交換、やっとの思いでクックまで戻った。

駅前にいた保線作業員に空気入れを借りてようやくバイクが元通りに。

しかし・・・

このルートの完走への思いが強かったROOKIEだが、ここまでいっぺんにトラブルに遭っては、

さすがに気が変わった。「これ以上先へ行くなという神のお告げなんだろうか・・・」

途中であきらめると言うのには非常に悔いが残りそうだが、仕方なく断念。板さんから遅れること

3時間、彼が走った道をたどって僕も国道へ抜けていくことにした。


クック〜1号線への道
クックから国道1号線への抜け道。
超フラットダートで時速100キロで
1時間で国道へ。

地平線へまっすぐのびるダート、
真っ青な空。
ROOKIEお気に入りに写真の一つ。









 クックから順調に走り1時間で国道1号線へ。「あぁ 何日ぶりの舗装道路だろう」

ここまでくれば、交通量も多く多少のトラブルがあっても十分対応できそうだという安心感が

できる。国道へ出て最初にあったロードハウスで休憩することにした。 つい昨日までの、

文明とは縁がない状態から思うとたった一軒のロードハウスがまるでオアシスのようだ。

ここでびっくり、僕よりも3時間先に国道へ出ていたはずの板さんがそこにいたのだ。

話を聞くと、国道へ出てからパンクしてしまい、空気入れはROOKIEに渡していたので

しかたなくパンクしたまま走り、このロードハウスで修理を終えて、疲れたのでここで泊まるつもり

でいたとか。僕もまさか板さんと再会できるとは思っていたかったのでとても嬉しかった。

ここにはもう一人、自転車でオーストラリアをツーリングしている「虎ちゃん」もいた。

彼はパースの宿で一緒だった。お互いパースを出てからこれまでどんな感じでやってきたかを

語り合った。やっぱ一人より仲間と一緒のほうが楽しいなぁ。

1号線ナラボーのロードハウス
国道1号線へ出て最初のロードハウス。
この写真を撮影したのは夜の9:30
ここはサウスオーストラリア州だが、この
州の標準時はずっと東のほうにある
アデレードなので太陽の高さと時計がさす
時刻にはずれが生じる。

時差があるところを陸づたいでまたいで
旅をしていると、独特の不思議な感覚が
体験できる。


用  語  解  説
ライム 石灰みたいなもの。ルーンガナにはそれを掘っている工場があった。
オージー オーストラリア人は自分たちのことを親しみを込めてこう呼ぶ。
ボーダー 州境のこと。オーストラリアは広い国なので、ボーダーを超えるごとに
時差がある場合も。サマータイムを実施している州もあり、時差に
ついてはややこしい。


おしまい。次はパース以来の大集合、アデレードです。お楽しみに。

ツーリング写真館もどうぞご覧ください

home          back           next          index