23. ナラボー 1
Nullarbor 1



最後のストックルート

 エスペランスで板さんと合流したあと、2人で北上しカルグーリーへ向かう。

カルグーリーから東へ、クックあたりまでの一帯はナラボー平原と言うとてつもなく大きな平原。

いつまでもどこまでも変わらない景色が延々と続くところである。

1号線は上の図の紫色の斑点がそう。カルグーリーからは東へ向かう道はないので、

東へ向かう車はほぼすべてが紫の斑点の1号線ルートを通る。

僕らが1号線に入らずに北上を続けるのはなぜか?

それはオーストラリア4大ストックルートの一つ、ナラボーレールウェイルートに挑戦するため。

オーストラリア南部には大陸横断鉄道が走っていて、シドニーからパースまで3泊4日の特急列車

「インディアンパシフィック号」が走っている。

ほぼ海沿いに走る国道1号線とは離れて、内陸部に100キロほど入ったところを鉄道が走っていて、

基本的に道はないのだが、線路沿いを走っている限りは道に迷うことがないということから

冒険好きなライダーが挑戦するルートなのである。

エスペランスから北上するに連れて、気候がみるみる暖かくなってくる。ちょうど1号線と分岐する

ところにある「ノースマン」と言う町ではTシャツでいられるくらい。ここで昼飯を食べようって言うことに

なったけど、2人ともビールをカウンターバーで一杯飲んでそれが昼飯代わり。

のんびり行こう。




カルグーリーで

ナラボーレールウェイルートは全部で1500キロ、もちろんすべて未舗装。というかそれ以前に道で

ないところを走るわけやし。

その途中で補給できるところは500キロごとに2カ所。

したがってカルグーリーではストックルートに入る前に万全の体制を整えておくことが重要である。

まずはバイクの整備。板さんはタイヤを交換していた。僕もオイル交換やチェーンのたるみ具合の

チェックなど、バイクの点検は入念に行った。

次に荷物の整理。ストックルートに入る時は、ツーリング日記の前半にもあったケープヨークと同じく、

バイクの装備重量が少しでも軽いほうが操作性がよくなるので極限まで切りつめた装備にして、

残りはすべてアデレードのG.P.O宛に送った。具体的に言うと、それぞれが持ち歩いていた

調理器具やバイクの修理工具、空気入れなど、またテントなども2人で共用するといった具合。

僕と板さん二人分でアデレードに送った荷物の重量が30キロ、送料は$54もしたよ。高いなぁ・・・

続いてナラボーレールウェイルートに挑戦するためにはオーストラリア国鉄に申請する必要がある。

日本でも冬山登山とかする時に、事前に計画書を提出するのと同じような感じ。

地図や案内所で調べて、板さんと2人でオーストラリア国鉄のカルグーリー管理事務所へ行って

申請してきた。

「11/30にカルグーリーから入って12/4にスチュアートハイウェイ(クックの東約500キロ)へ
 抜ける予定です。」

前回エスペランスで会ったバイク仲間達もカルグーリーでまた再会。彼らは僕らより1日遅れで

ナラボーレールウェイルートに入る予定らしい。縁があったらまた会うだろうか。




一気に500キロ

 11月30日  朝7:30にカルグーリーを出発、地図を見ながらとりあえず線路を探して走っていった。

結構迷いはしたが、なんとか線路づたいの道らしきところを発見、道かどうかはわからないが、

線路づたいに走ってさえいれば必ず次の町へ出るので安心して走っていく。

ロードコンディションはというと・・・とても良好。

フラットダートで時速90キロくらいで順調に走っていく。天気も上々。

このナラボーレールウェイルート、補給できるのは500キロ毎と書いたが、鉄道の保守点検の

ための施設はおよそ100キロ毎に見られる。鉄道の資材置き場みたいなもので人はまったくいないが。

カルグーリーから200kmほど走ったところに
あるザンザス駅。
駅と行っても町があったり人がいたりする
わけではなく、引き込み線に貨車が何両か
置かれているだけだった。

内陸部といっても海からそんなに離れて
いないので、砂漠ではなく、緑も見られる
平原である。

ここら辺はまだまだ楽しかったが・・・







作業員の休憩小屋にでも使っていたん
だろうか。ちいさな小屋があった。

360度地平線しか見えないところをずーっと
走っていると、こういう人の手が加えられた
物を見るとホッとする。

左がROOKIEのバイク 「テネレ」
右が板さんの 「ドミネーター」







ごらんの通り、どこが道というわけでもない。
だだっぴろい平原をただひたすら線路づたい
に走る。

大陸横断鉄道には一日数本の列車が行き交う。
こんなところに好きこのんでくる旅人はおそらく
日本人のバイク乗りくらいでは・・・

機関車の運転士にしても景色の変わらない
退屈なところを走っているせいか、僕らを
見つけると汽笛をならして手を振ってくれた。





 時折、休憩しながら走っていたものの、ロードコンディションに恵まれたせいで午後1時頃までで

すでに450kmも走って最初の補給基地である 「ロウリナ」に到着。

ここも町と言うにはほど遠い人口30人ほどのところで、大陸横断鉄道の保線作業員のために

ある集落。駅にはその集落唯一の商店があって食料品などを買うことができるが、店の開店が

午後1:30からだと言うので30分ほどのんびり待つことにした。

その間ににペトロを補給する。

「ペトロはどこで売ってるの?」と駅の人に尋ねたら、「こっちへついて来な」ってんで駅の横に行って

みたらペトロスタンドとはまったく違うただの倉庫。そこに燃料を保管しているらしい。

そりゃぁたった30人の集落でロードハウスなんてものはないわなぁ・・・

ドラム缶から手で汲み上げるポンプを使ってバイクに補給するのだが、メーターなんてのはなくて

ポンプひと汲み$1やって。 高いなぁ・・・さすがに超僻地だけあって輸送費にだいぶかかって

いるんだろう。燃料補給を終えてまもなく、インディアンパシフィック号がやってきた。

その乗客が駅の売店でいろいろ買っている。

乗客にしても500kmぶりに列車から降りて休憩できるわけである。

あぁなるほど、列車が着た時だけ店を開けているんか・・・

ロウリナの売店では、保存食みたいな物をいろいろ買った。クラッカーやビンに入ったチーズ、

コンデンスミルクやインスタントラーメンなど。

次の補給箇所はクックで距離は約500km。これまで450kmを一日で走ってきたことを思えば

余裕を見ても2日あれば着くだろう。と行程を予想し、さらに安全策として3日分の食料を買い込んだ。




一気にペースダウン

 ロウリナで食料と燃料の補給を終え、まだ2時過ぎで時間があったので先へ進むことにした。

ところが、午前中の快適なダートとはうってかわってものすごい悪路。

こぶしくらいから頭くらいの大きさの石がゴロゴロしていて、避けようがないほど散らばっている。

しかも丸い石ではなく、かなり鋭利な形の石。進入角度が悪ければ一発でパンクしそうなくらい。

ロウリナまではコンスタントに時速90kmで走ってこられたのに、ここへきて時速40km以下にダウン。

おまけに雲行きまであやしくなってきた。

ウエスタンオーストラリアはパースを基準に標準時を定めているが、今僕らがいるあたりはパースよりも

東へ1000キロほど来ているところ。時計の針が指す時刻のわりには日没が早いのである。

ロウリナを出て2時間かけてたったの40キロしか進んでない、だんだんと日が暮れてきて、

今晩はブッシュキャンプかなぁ・・・なんて思うようになってきたが、できれば雨風しのげる所

(保線作業員用の休憩小屋)でテントを張りたかったのでなんとか先へ進んでいた。

今にも雨が降りそうで不安な気持ちで走っていたところへ水たまりが現れ、泥にタイヤを取られて転倒。

「あちゃ〜 ついにやってもうた・・・」 一息入れてバイクを起こしたが、あたりはすでに真っ暗。

仕方がないのでここでブッシュキャンプすることに。

テントを張っている時にすでに雨が降り出してきて「あぁ も〜最悪や」

2人用のテントの中に2人入って寝る。これがまた狭いんだ。荷物を入れるスペースはないので、

ブルーシートにくるんで荷物は外へ置いていた。場所によっては荷物を外においていたら野生の動物

やアリなんかにやられてしまう可能性が高いが、こんな見通しのいい平原で近づいてくるカンガルーも

おらんやろうということで荷物を外へ置くことにはあまり抵抗がなかった。

テントで寝たことがある人ならわかると思うが、テントの中で寝ている時ってものすごく音に敏感になる。

外が見えないので少しでも外で音がしたら気になったりするのだ。

まぁこんな道もない僻地で誰かがやってくるなんてことはまずないだろうが、この夜は雨の音が僕らを

不安に陥れた。テントの中にいるときの雨はほんと最悪である。あまり雨が強いとテントの中まで浸水

してしまって寝ているどころではなくなる。おまけにこの夜はものすごい雷の

轟音が響いていた。神様仏様頼むから雨をやませてください・・・と心の中で願いながら眠りにつく。


久しぶりのブッシュキャンプ
テントを張る時はすでに日が暮れて真っ暗で
手探りでのテント設営だった。


これは一晩経って翌朝に撮った写真。
どんより曇った空が僕らを不安にさせる。








 ここまではまだ序盤で、僕らに待ちかまえているハプニングはこれからなのだ。

次回ナラボー2は精神力が問われます。お楽しみに。



用  語  解  説
インディアン
  パシフィック号
オーストラリア大陸横断鉄道の花形列車。シドニー 〜 パース間4352kmを
3泊4日で走る。通常は飛行機で移動する距離なので全区間乗るということは
観光的意味合いが強い
ペトロの値段 日本でも地方によってガソリンの値段が違うようにオーストラリアでもかなりの
違いがある。
一番安かったのはサーファーズ(通称ゴールドコースト)で60¢/リットルくらい、
高かったのはこの章で出てきたナラボー平原のロウリナでポンプ一汲み
(1リットル弱)$1だった。
ちなみに当時 1オーストラリアドル=¥75〜¥80くらいだった。
テントのスペース 2人用とか4人用などテントの人数の数え方は一人あたり50cm×180cm 
つまり2人用のテントに大人2人が寝ると寝返りをうつのもままならないほど狭い。
上の写真にある銀色のテントはROOKIE所有の2人用テント。ナラボーではこの中に
板さんと2人で寝ていた。


ツーリング写真館もどうぞご覧ください

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